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2008/04/29

赫炎のインガノック~What a beautiful people~

公式サイト

「血も涙もないヤツはシアトルに行きな。今回は人情話だ。依頼なんかあるわけないだろ。困ってる女の子が目の前にいたら助けるんだ。そいつがストリートの掟だからな」
──ストリートの警句?

 クリアからずいぶん経ってしまいましたが、赫炎のインガノックの感想レポートです。感想を書きながらプレイしなおし読み返してたらえらく時間が経ってしまいました。でもまだ書き足らないまとまらない。とりあえず埒が明かないので多少なり形になったところだけでもアップするものなり。

 1週目だってそれなりに時間をかけて読み込んだつもりではいたんですが、読み返してみると伏線や心情描写についての新しい発見があとからあとから出てきます。特に41の数字や老師イルとランドルフの言葉、彼と彼女の関係。ここではかけないあれやこれや。
 文章の使い方がずるいくらいに上手いなぁ。

──誰かが夢見た世界。
──いつか夢見た世界。
──けれど、こんなにも猥雑で、残酷で、憂いに満ちて。
──眩しいほどに輝いて。

 あらゆるものが異形と化した多重積層型蒸気機関都市インガノック。
 突如都市を襲った《復活》と呼ばれる原因不明の災厄によってこの世の地獄と化した異形都市。もはや人を救うことに意味を持たないこの積層都市で、それでも誰かへとひたすらに手を差し伸べ続ける巡回医師ギーの物語。

 それは数式医。それは巡回医師。
 すでに都市での絶望を知っているはずの男。

 徹頭徹尾「手を伸ばし続ける」ことにこだわった、壮大で美しいおとぎ話。
 作中にちりばめられた謎や伏線が見事に終局に向かって収束していくさまはじつに見事。本当にきれいでした。全ての登場人物が愛しい。
 テキスト自体が本当に良く練りこまれています。一定のルールを持った規則正しい文体で、同じ表現を何度も使うことが、こんなにも深い表現方法になるとは思いませんでした。これは文字を読むのを好む人にはぜひ触れて欲しい。

 また、本文とイラスト音楽の組み合わせが作り上げる、異形都市インガノックの雑然とした雰囲気がたまりません。
 冒頭の小ネタ(血も涙もないヤツはシアトルに──)でもちょっと触れましたが、用語やガジェットを見る限り、かなりメインに近い部分に小説ニューロマンサーやTRPGシャドウランをはじめとするサイバーパンク作品の影響があるのは間違いないのですが、いわゆるオーソドックスなサイバーパンク(それは『パンク』であるのかという話はとりあえずわきに置く)的なイメージからはかなり外れています。ガジェット自体はスタンダードなものばかりだというのに、歯車の音とオイルの匂いがするようにすら感じます。
 この独特の都市の風景を空気として感じられるっていうのが本当に素晴らしい。あんな地獄みたいな街なのに、移住したくなってしまうほどだもの。


<以下ネタバレ>

<ネタバレ警告>

  こ     喝采せよ! 喝采せよ!
  の
  先     ここは都市
  に     歪んでしまった都市インガノックなる
  は
  赫     お前さんはきっと知るまい
  炎     どこからか来たかわからぬ子よ
  の
  イ     ここは都市
  ン     ここは孤独都市。《無限霧》に阻まれて
  ガ
  ノ     かつて百万の人を擁せしも、
  ッ     10年前に幾万幾十万が死せる地なる
  ク
  本     人々は変異し、幻想の生物たちは現出し
  編     強大なるクリッターどもが恐怖を撒いて
  お
  よ     人はそれでも生きねばならぬ
  び     人はそれでも涙を堪えねばと
  関
  連     10年前に置き去りし、
  作     忘れたものを求め、
  品     清浄なる上層貴族たちの優雅さを夢見て
  に
  関     けれど、けれどもお嬢さん
  わ     忘れてはならない
  る     すべての幻想が蘇りしこの都市なれども
  ネ
  タ     たったひとつのおとぎ話
  バ     鋼鉄の
  レ     ひとに《美しきもの》をもたらすもの
  が
  あ     41のクリッターと対を成す
  り     41の鋼鉄人形、それが唯一のおとぎ話
  ま    
  す     忘れてはならぬ
        何故に41の鋼鉄人形が在るのかを

        ――ここはインガノック
        ――涙と血とが紡ぎ出した最後の城

        ――世界の果て、道化の異形都市――


<ネタバレ警告>

 上でも書きましたが、初回だってそれなりに読み込んだつもりではあるのだけれど、繰り返し読めば読むほど、気がつかなかったことや上手く騙されていたことに気がついて悔しいような嬉しいような気分になります。テキストのねりこみがすごいですよ。まったく騙る語り方。

 第一章最後の
──どうして──
──僕は──
──きみひとり、助けられずに──
や、第二章の老師イルの壁から落ちた卵の話、それに第五章の
「……誰かのために泣いた彼が、好き
……きっと忘れない。
あの日、あの時のギーの瞳を」
といった言い回しがいつだれに対するものなのか?十年前の出来事を知る前と後でまったく世界の見え方が違ってきます。老師イルやランドルフがどれだけ直球で物を言っていたのかだとか。


 言葉の練りこみと言えば、繰り返しの効果。たとえばギーが鍵を開けて自分のアパルトメントに入るシーンとアティが鍵を開けてギーのアパルトメントに入り込むシーンの対比だとか、インガノックや無限雑踏外の描写、そして喝采せよ!にクリッターとの戦闘。ただ同じ表現をくり返すだけではなく、微妙な差異でもって効果的に変化を演出してくれます。
 とゆーかね、ぶっちゃけていうと、BGM「力の顕現」が流れ出して

──鋼の右手が── (デッデデンデンデーン♪)

──暗闇を裂く── (デッデデンデンデーン♪)

が始まるとすげぇワクワクするんですよ!!気分的にはハヤタがウルトラマンになったような高揚感?


 二週目はわざとバッドエンドを見たりしているんですが、バッドエンドのテキスト、ここでかなり重要な情報がいろいろ示されていてビックリ。
 バッドエンドの文章(……彼を、殺すことになる、か……)やペトロブナのシーンから考えるに、きちんと進行した場合のジョン・スミスは生きているのかな?そうあって欲しいと思う。

 エンディングテーマの後の子どもたちがポルシオンに手を伸ばすシーン。はじめた見たときもほろりときたんですが。二週目、これが第一章のキーアがギーに手を伸ばすシーンにかぶせてあるのだと気がついてまた号泣。徹頭徹尾手を伸ばすことにこだわってるんだ。あのシーンにいるのはギーが手を伸ばした結果として救われた子どもたちだしなぁ。

 そしてそのまた後の二人の(10年前の?)会話……だから、願いをかなえるために、空を見せるためにあの雲をこじ開けてみせたのかギー先生……。
 そういえば、本編中で何度も太陽の話が出ていたものなぁ。ああ、だから赫なんだなぁ。目指すところは同じ空だけど、セレナリアは青空でインガノックは太陽(というかお日様)なんだろうと言う気がする。

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コメント

アペンドシナリオ未読のためまだネタバレスレには行けません。

>テキスト自体が本当に良く練りこまれています
そーなんですよねー。三行のテキストウインドウで読ませる(聞かせる)物語としてはもう類を見ない完成度。台詞回しや文体は勿論、改行位置すら美しい。喝采します。

>BGM「力の顕現」が流れ出して(中略)
>が始まるとすげぇワクワクするんですよ!!
ウィ、ムシュー!(ですよねー!)
個人的には「……なるほど、確かに」あたりでもうワクワクしてました。
(ええ、毎回ギー先生と一緒に叫んでましたよ私は)

投稿: エム | 2008/05/01 00:55

──鋼の右手が──
(デッデデンデンデーン♪)
──暗闇を裂く──
(デッデデンデンデーン♪)

>アペンドシナリオ未読のためまだネタバレスレには行けません。

――紅蓮の吐息が、触れる物全てを焼き滅ぼしていく。
――速い。目では追えない。

生身の体では避けきれまい。
鋭い反射神経を備えた<<猫虎>>の兵や、
神経改造を行った重機関人間以外には。

(中略)

ギー「……遅い。」

(中略)

>個人的には「……なるほど、確かに」あたりでもうワクワクしてました。
>(ええ、毎回ギー先生と一緒に叫んでましたよ私は)

ギー「喚くな。」

【思いついたからやった。さすがに失礼だったかと反省はしている】

 それはそれとして、
──右手を、伸ばす。
──前へ。
に合わせて自分の右手も前に差し出していた俺、参上!

投稿: Johnny-T | 2008/05/03 00:58

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