中山雅洋『北欧空戦史』
『1939年11月30日、北欧フィンランドにソ連軍が侵攻を開始した。ソ連の大兵力に対し、貧弱な軍備しかもたないフィンランド。その独立国家としての命運は風前の灯であるかに見えた。しかしこれは、フィンランド空軍戦闘機隊の驚くべき大活躍の始まりであった!バッファローをはじめとする“二流”戦闘機を駆る奇跡のエース達。彼らはいかにして戦い抜き、森と湖の小国は独立を守り通したのか?すべての航空・戦記ファンに贈る伝説の航空戦記、ついに復活』
第二次世界大戦でドイツとソ連という二つの大国の利害に巻き込まれたスカンジナビア半島の三つの小国。大国の脅威に晒された小国がどう立ち向かったのか。そのドラマチックな戦いは、軍事史や兵器にあまり興味のない人間が予備知識なしで読んでも楽しめます。
早い時期に占領されたノルウェーは軽く触れられているだけですが、ソ連を相手に終戦まで戦い抜いたフィンランドと、大国の利害の傍らでそれでも最後まで中立を守り続けたスウェーデンの戦中・戦後については詳細に解説されています。
正直、これを読むまではスウェーデンについては戦闘機開発に熱心な国だなぁくらいにしか思ってませんでしたが、第二次世界大戦におけるスウェーデンの孤立無援・四面楚歌っぷりを知った今ではその不屈の精神力に感動すら覚えます。
この本で扱っているテーマは各国の飛行機導入の歴史から戦争前後の出来事、各戦線の記録、独自戦闘機の開発、など様々ですが、インパクトが強いのはスウェーデンの戦時急造の無茶っぷりとレンド・リース船団のカムシップ搭載戦闘機の命知らずっぷりです。
世界にきな臭い空気が漂う中で、急場しのぎの戦闘機すら入手できない小国スウェーデンは半ば自棄で戦闘機の自力生産にとりくみます。
『少将はルンドベリー技師を呼ぶと言った。ドイツやソ連の空軍機と戦える戦闘機を作って欲しい。それもものすごい早さで作って欲しいのだ。ただしアルミニウムは乏しいから、木と鋼鉄で作るのだ。悪条件下の開発だから性能は高望みしないが、Me109EやI-16と互角に戦えて、数が揃えばいいのだ。やってくれるか?
ルンドベリー技師にはひとつの疑問点があった。スウェーデンには戦闘機用のエンジンがないだろう?それをどうする気だ?
少将は答える。それが実はあるのだ。リンチェピン工場で国産のL10偵察機を試作したことを覚えているだろう?大きな声ではいえないが、あのとき輸入したプラット・アンド・ホイットニー十四気筒空冷星型エンジンを図面に写し取り、ライセンスなしにスウェーデンでコピー生産に成功したのだ。この星型エンジンは1065馬力を出す。これを使って新戦闘機を作ってほしい』(P204~)
……無茶しやがって。
米国、英国から送られたレンド・リースによる援助物資(戦車、車両、燃料、食料、etc)はソ連に大きな力を与えましたが、その輸送船団には上空援護がなく、ノルウェーに基地を置くドイツ戦闘機にとっては格好の獲物でした。
ノルウェー沖におけるドイツ空軍の脅威に対し、英国海軍が送り込んだのが、貨物船にカタパルトを取り付け、戦闘機を1機だけ搭載する「カムシップ」(カタパルト武装商船)です。独爆撃機が来たらハリケーン戦闘機をカタパルト射出して迎撃戦闘を行うという代物。護衛空母が付くまでのつなぎですが、一定以上の効果を上げています。
ですが、元々ただの商船の船首にカタパルトを無理やりくくり付けて、戦闘機をその上に(吹きっさらしで)載せただけの急造装備。航空偽装もカタパルト以外は何もありません。もちろん着陸用の甲板も。船に降りることはできないからハリケーンは使い捨てで、海上に不時着水するか、搭乗員だけパラシュート降下するのだけど、ちょっと着水をミスしたり海が荒れてたりするとパイロットは……。
……戦争はイカンよ。
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