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2008/08/31

スティーヴ・ホッケンスミス『荒野のホームズ』

『洪水で家も家族も失ったおれと兄貴のオールド・レッドは、今では西部の牧場を渡り歩く、雇われカウボーイの生活を送っている。だが、ある梳きめぐりあった一篇の物語『赤毛連盟』が兄貴を変えた。その日から兄貴は論理的推理を武器とする探偵を自認するようになったのだ。そして今、おれたちが雇われた牧場はどこか怪しげだった。兄貴の探偵の血が騒ぐ。やがて牛の暴走に踏みにじられた死体が見つかると、兄貴の目がキラリと光った……かの名探偵の魂を宿した快男児が、西部の荒野を舞台にくりひろげる名推理。痛快ウェスタン・ミステリ登場』

 名探偵シャーロック・ホームズに憧れる兄グスタフと、ワトソン役の弟オットー。カウボーイのアムリングマイヤー兄弟が無法の大西部で怪事件に挑む。ウェスタンとシャーロック・ホームズという珍しい組み合わせのパスティーシュ。
 ホームズ役が名探偵に憧れる無学な(文字も読めない)カウボーイということでコメディっぽい話かと思ったら大間違い。リアルな西部の荒野で勇気と論理的推理を武器に戦う男の物語。グスタフは、まったくホームズの弟子にふさわしい名探偵でした。
 主人公のアムリングマイヤー兄弟は、ただの「推理役」&「驚き役」で終わらない実に良い主人公コンビです。かれらが「ホームズを目指す男」であることと「その男の兄弟であること」について話し合う『キャンプ』の章では、兄弟の絆におれ号泣ですよ。
 号泣といえば、グスタフがライヘンバッハについて聞かされるシーンの緊迫感ときたら!読んでるぼくのほうが泣きそうになりましたよ。つーか、ちょっと泣いた。

 物語の構成や作品中での伏線の張り方はしっかりしたものですが、さらにその上でそれを原作に結びつける腕前が見事。『未婚の貴族』とそのものずばりの答えを提示されるまでバルモラル公爵が原作の登場人物だなんて気がつきませんでしたよ。
 主人公がホームズのファンというだけではなく、登場人物やちょっとしたもしくは重要なガジェットに意外な形でシャーロック・ホームズとのつながりがあってびっくり。いい味を出している若者ブラックウェルはこっちに父親の名前だけ出てるな。作者は相当のシャーロッキアンですね、ネタの選定がよく考えられてる。
 
 訳者あとがきによると、このアムリングマイヤー兄弟ものはシリーズ化されていて、二作目の翻訳も確定しているそうです。これは本当にうれしいぞ。発売はまだか、発売はまだか!ハリーハリーハリー!


「やめてくれよ、兄貴。あんたはカウボーイであって、探偵じゃないんだぜ」
 オールドレッドは答えなかった。こちらを振り向くと、口ひげをわずかに動かして、にやりとしただけだった。自分は賢いんだと思うときの癖だ。
『そうかい?』と兄貴の顔は言っていた。『両方になれるやつだっているだろ?』

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コメント

 楽しい小説ですね。俺も大好きです。

 本格ミステリの熱心な読者じゃないもんで、自分のブログで勝手なことを書いてしまいました(フェア・プレイとかそういうことにこだわるあまり、小説としての面白さから目を背けることになってしまってはマズいだろうというお節介です)が、シャーロック・ホームズ譚を知っていればもっと楽しめたんだろうなあ、と思います。

投稿: prankette | 2008/09/01 20:39

 どうも、ブログ拝見しました。

 ハードボイルドが、言わば「やせ我慢の美学」であるならば、まったくオールド・レッドの生き様はハードボイルドです。男の中の男にだけ許される生き様です。
 だからこそ焚き火の前で語りあう兄弟のシーンが映えるわけで。
 畜生、格好いいなぁ。

投稿: Johnny-T | 2008/09/04 00:03

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