ロバータ・ロゴウ『名探偵ドジソン氏 マーベリー嬢失踪事件』
『大英帝国華やかなりし1885年、真夏の避暑地ブライトン。ごった返す駅の構内をさまよう初老の男の姿があった。彼こそは、高名な数学者チャールズ・ドジソン氏―ルイス・キャロルその人である。ひと夏をともに過ごす予定の、国会議員の娘マーベリー嬢が失踪したのだ。消えた少女を捜すドジソン氏に、頼もしいパートナーが現われた。正義感あふれる若き医師、アーサー・コナン・ドイルである!史実を巧妙にからめて歴史を掘り起こし、キャロルとドイルが夢の推理合戦を展開する、注目のミステリー!』
19世紀末のイギリスを舞台に、シャーロック・ホームズの作者コナン・ドイルと不思議の国のアリスの作者ルイス・キャロルことチャールズ・ドジソンが手を組んだ!夢のタッグが悪に挑む!!
作中ではヴィクトリア朝のイギリスが、情景が目に浮かぶほど詳細に描写されています。行楽都市ブライトンのにぎやかな街の、その光と影。人であふれかえる汽車や往来を行きかう馬車、手入れに行き届いた貴族の邸宅、薄汚れた警察署、そして下層階級の生活。古い時代と新しい時代が渾然一体となった混沌の時代。
作者は、モデルの人物や時代についてよく調べていて、色々なところに小ネタを仕込んだりと色々がんばってもいます。あの時代が好きな人にはニヤリとできることでしょう。
古い時代のモラルを持ち続けるドジソン教授と新時代に対応した血気盛んな若者ドイルの組み合わせもまた愉快。
……それだけに肝心のストーリーが面白くないのが致命的なんだよなぁ。コンセプトだけで突っ走っちゃったというか、やりたいネタや描きたいシーンを全部入れちゃったせいでまとまりがなくなってる。すごくもったいない。
捜査は基本的に行き当たりばったり。良く言えば出たとこ勝負。犯人側がひどく迂闊で残念で、かれらが自爆してくれたおかげで事件が解決したようにしか見えません。
前半のページでこいつが犯人ですよーと読者に示してるのに、クライマックスで探偵役が「犯人候補が二人いるがどちらが犯人なのか分からない」とか言い出してもぼくらはハラハラドキドキしませんよ。
田舎警部と都会警部の係わり合いなんかは、これメインで一本の小説になりそうないいモチーフなのに投げっぱなしで終わってるし。
この前のアルカーヌムとは真逆で愛情があふれすぎて空転してる感じだ。
この本といっしょに第二巻『降霊会殺人事件』も買ってきたのだけど、こっちはもうちょっとその辺りがよくなってるといいなぁ。
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