藤本ひとみ『歴史発見!ドラマシリーズ 美少女戦士ジャンヌ・ダルク物語』
『13歳で「不思議な声」をはじめて聞いたジャンヌは、自分が戦士として選ばれたことを知ります。そしてその声にみちびかれて旅立つのです。行く先は宮廷の街。天然系で元気なジャンヌは、さまざまな困難を、時には仲間と助け合いながら、がんばって乗り切っていきます。ごくごく普通の少女だったジャンヌの大活躍にドキドキワクワクです!』
百年戦争末期、フランスの勝利に寄与したとされる少女ジャンヌ・ダルク。
ドンレミ・グリュ村に生まれ、ルーアンで火刑になるまでのその生涯を丁寧に、史実に基づいて描き出しています。
作者の過去作の容赦のない展開から、その殺意――具体的には火あぶり――ばかりが気にされているこの本ですが、その実はたいへん誠実な作りの伝記本です。開始31ページにして「ジャンヌの命は、後三年しか残っていなかったのでした」と明言されるくらい誠実。
国家間の衝突、シャルル6世の死による政治混乱から始まる宮廷内の権力闘争と、各勢力の勢力配分といったジャンヌ登場以前のフランスの状況。
一介の豪農の娘に過ぎないジャンヌがヴォークリュールの街の守備隊長に会うことができたのはなぜか。その圧力はいかにして発生したのか。
王太子シャルルの宮廷との仲介をヨランド・ダラゴンの息子ルネが行ったのではないかという推測とその根拠。
王太子軍の編成とジャンヌが軍指揮官たちから存在を許容されるまでの軋轢。
捕虜になった後の彼女を巡る駆け引きと、その価値を失ったジャンヌに対するシャルルの宮廷の仕打ち。「ジャンヌを欲しがっていなかったのは、国王とその宮廷だけでした」
そしてジャンヌ死後のフランスの状況――何もかもがどうでも良くなったジル・ドゥ・レが大量殺人を犯して刑死したことも含む――について。
……その、なんというか、本文の半分以上がジャンヌを取り巻く政治的状況を語っているページなんですがね?美少女戦士がどうとかが関係ない部分でドキドキワクワクですよ!これで文章力が高くて、どこをとっても面白いから困るんだよ!
言い回しが柔らかくてひらがなを多用していることと、タイトルから連想されるものと本編の内容に大きな乖離があることを除けば大人が読んでも充分楽しめる立派な伝記本です。
これシリーズタイトルが世界(もしくはフランス)の偉人シリーズならそれで問題なかったじゃんよ!何でわざわざこんな誤解を生むようなタイトルと紹介文をつけるんだよ!きれいに釣られたぼくが言うのもなんだけどさ!
……あとがきでこれの前の話が『マリー・アントワネット 夢見る姫君』と知って色々と頷けるものがありました。ドラマチックに処刑された女の子シリーズ(今命名)の次回作はさ、男装スパイっ娘の川島芳子とかがいいと思うよ。フランスの話じゃないけど。
この間の記事(あらやだ、もう一月も前だわ)を書いた後に、オンライン・オフライン問わずいろいろな人とこの本の話をしましたが、そのほとんどが「王領寺静だから容赦なく殺るよ」という意見でありました。もちろんぼくもな。
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